まず、Lightroom の特徴の1つとして、
『元画像に一切手を加えることなく編集や調整が行えるので、Lightroom 上でどんなに補正作業を重ねても、元画像はオリジナルの状態のままで残る』
というものがあります。
でも、Photoshop や他のソフトでも 『名前を付けて保存』 さえすれば、元画像は元の状態のまま残って同じことなのに、どうしてわざわざこんなことをアピールする必要があるのでしょう?
これはどういうことかと言いますと、だいたい以下のような感じになります。
例えば、今、あなたの目の前に一人の画家がいるとします。
その画家自身はオリジナルの絵を描くことはないのですが、その代わりサンプルとなる絵や写真を見せさえすれば、あなたの目の前で、その絵をとてつもない速さで
完璧に模写
することができます。
でも、この画家のスゴイところはそれだけではなく、画家自身が描いたその模写に対して、どのような修正や加工でも瞬時に行うことができます。
ですので、画家が描いた模写に対して、あなたが 『この辺りをもう少し明るめに』 とか 『この辺は鮮やかに』 といった注文を出すと、その度に、何度でも、注文通りの補正を、あなたの目の前で行って見せます。
しかも、これまであなたが注文した修正内容や程度の履歴をすべて覚えていて、『やっぱり2つ前の状態に戻してくれ』 と言えば簡単に戻してくれます。
やがて、あなたの納得のゆく状態に仕上がったら、その模写を譲ってくれます。
でも、サンプルとして見せていた
もともとの絵や写真
に対しては何もしません。
この場合の、”サンプルの絵” というのが画像データで、”画家” が Lightroom、”画家の描くキャンバス” が Lightroom の画面、ということになります。
ただ、ここまでの内容でしたら、Photoshop で画像を開いて編集し、『名前を付けて保存』 することと基本的に同じです。
実は Lightroom の真価はここから先にあって、この話は以下のように続きます。
あなたはその画家の仕事ぶりがすっかり気に入って、今まで、既に何百枚 ・ 何千枚と画家に注文してきました。
ある日あなたは、ずっと以前に注文したことのある絵をもう少し追加修正したくなって、画家を訪れました。
実はこの画家は自分のノートを持っていて、そのノートに、今まで画家が行ってきた作業、どの絵に対して、どんな補正を、どの程度行ってきたか、
その履歴を1つ残らずすべて記録
しています。
さらに、あなたが画家に見せた絵は、見せるだけで補正を注文していなかったものを含めて全て縮小版の模写を作っていて、その縮小版もノートの記録と同じページに貼っています。
ですので、あなたはそのノートの縮小版画像を見ながら、今までどの注文に対してどのような補正を行ってきたか、いつでも具体的に確認することができます。
この点が、Photoshop 等他のソフトとは決定的に異なる部分です。
上の画像の、下部サムネイル部分が 『縮小版』 で、そのサムネイルをクリックすると、その画像に対して行った 『補正履歴』 が全て表示され、その補正履歴をクリックすると、その段階での反映結果が中央部分に表示されます。
この 『縮小版』 と 『補正履歴』 の部分が、Lightroom という画家が自分のノートに記録している内容です。
Photoshop の場合は、画像を開いて作業を行っている間はその作業内容を履歴として記憶していますが、Photoshop を終了した瞬間にそれら作業履歴は消滅してしまいます。
ですので、”元データ” と、元データの補正後に ”名前を付けて保存したデータ” があれば、あなたの手元にはゼロと100の状態が残っていることになるわけですが、もし後日振り返って50の状態から別の方向に補正し直したくなった場合、その50の時点で ”名前を付けて保存したデータ” が残っていなければ、また元データの状態から1から作業をやり直す必要が出てきます。
まして、37の時点とか72の時点とか、1つ補正を行うごとに ”名前を付けて保存” することなど現実には到底不可能なのですが、つまり Lightroom は、Lightroom に読み込んだ全ての画像の、全ての履歴に対して、それに近いことを自動的に行ってくれるわけです。
『近いこと』 というのは、編集を加える度に画像自体を (別名で) 保存しているわけではなく、先述の通り、Lightroom という画家は自分のノートに記録した履歴と、あとは元データを見せてもらえさえすれば、それを元に瞬時に自分のキャンバスに模写を描き出すことが出来るので、履歴の段階ごとに画像を作成保存しておく必要がないのです。
ここまでの内容を踏まえて頂いた上で、この話は以下のように続きます。
あなたは今まで何百枚という仕事をその画家に依頼してきたのですが、その元となる写真は画家に預けているわけではなく、全てあなたの家に保管しています。
あなたの家には無数の部屋があり、部屋の増設も取り壊しも移動も、あなたは思いのままに行うことができます。
さらに部屋の中には大きなキャビネットがあって、そのキャビネットも、あなたは増設も取り壊しも移動も思いのままに行えます。
そしてそのキャビネットの中に、あなたは自分の分かりやすいように分類して、画家に依頼する際の元となるデータをしまっています。
ところで、実はこの画家が正確に仕事を行うためには1つの条件があります。
画家のノートには、それぞれの画像に対する注文履歴とその画像の縮小版は貼られているのですが、実際にきちんと作品を仕上げるためには
縮小版ではダメで、やはりその元となる本来の画像データを見ながら作業することが不可欠
です。
そして画家のノートには、作業履歴と縮小版以外に、もう一つ大事なことが書かれています。
それは、それぞれの仕事の元となったデータが、あなたの家の、どの部屋の、どのキャビネットにしまわれているか、という元データの所在場所情報で、画家はノートに書かれたその情報を見ることで、あなたの家にしまわれている元データを探し出して遠くからでも見ることができて、その元データが見えるからこそ自分のキャンバスに正確な模写を描き出すことが出来るのです。
ある日、あなたは、自分の家の部屋やキャビネットを整理することにしました。
ある部屋を取り壊して新しい部屋を作ったり、あるいは部屋の名前を変更したりしました。
またキャビネットを別の部屋に移動したりキャビネット番号を変えたり、さらにキャビネット内の画像ファイルを移動したりと、いろいろ考えて頑張った甲斐があって、少々乱雑になりかけていたあなたの家は、見違えるほどスッキリとまとまりました。
でも、あなたはその整頓作業を行うことを、画家には伝えていませんでした。
数日後、あなたは再び、以前に注文したことのある絵をもう少し追加修正したくなって、画家を訪れました。
画家のノートには、編集履歴と縮小画像が記録されていますので、そのノートを見ながら注文したい画像を選ぶことは出来ます。
ところが、そのノートに記録されている元画像の所在場所に、あるべきはずのデータが見当たりません。
先日あなたが行った整頓作業の際に、部屋の名前やキャビネットの番号などが変更され、元画像の置き場が画家のノートに記録された内容と異なってしまっていたからです。
だから、元の画像ファイルが、フォルダの移動や削除などで、場所が変わったり無くなってしまっていると、Lightroom に記録されたデータ情報と不整合が出て、作業が行えなくなってしまいます。
この画家のノートのことを、Lightroom では 『カタログ』 と呼びます。
上の画像では、カタログに記録されていたサムネイル (※) と補正履歴は (薄く) 表示されるのですが、中央部分には 『フォルダーが見つかりませんでした』 と表示されて、編集作業は行えなくなっています。
つまり、Lightroom をメインとして活用されるつもりでしたら、HDD 内の写真用フォルダの構成やファイルの保存場所、できればバックアップをどのような形で行うか、といった辺りも含めて、
前もって十分に検討・設計
されておいた方が良いと思います。
※厳密には、サムネイル画像はカタログファイルそのものに保存されるのではなく、カタログファイルと同じフォルダに自動作成されるプレビュー用フォルダに保存されます。