色の再現と表現にこだわる - はじめに

ここ数年で、カメラそのものをはじめ、パソコン ・ 記録メディア ・ ディスプレイ ・ 画像ソフト等、
『デジタル写真 ・ デジタル映像』 に関する様々な要素が大きく進化してまいりました
時代 や 環境、性能等の変化に伴って、『デジタル写真』 は次のステップに移ろうとしています

ここから書くことは、今までの内容と少し方向性が変わります

たぶんどんな物事でも同様かと思うのですが、デジタル機器の場合は特に進化が早く、それら関連する技術や性能 ・ 環境の変化に合わせて、いろんな意味での ”基準となる考え方” や ”平均値” 的なものもレベルアップしてまいります。

写真や映像関連機器に関しても多くの進化があったのですが、その中でも、ここ数年で特に大きな変化があったのが以下の3点かと思います。
  • 1:記録メディアの大容量化
  • 2:汎用 RAW 現像ソフトの進化
  • 3:
    4K の登場
もちろん、上記3点以外にも、例えば 『高性能ディスプレイの低価格化』 も極めて重要な要素ですし、あと、これはハード機器とは別のお話になるのですが、デジタル一眼の普及機が登場して10余年が経ち、ユーザーの方々のカメラや写真データを扱うこと自体の技術や意識のレベルが格段にアップし、さらにそれに比例して、『より品質の高い作品作り』 を目指すハイアマチュアの方も増えてまいりました。

正直申しまして、最近はお客様とお話ししていてもkenkenの方が勉強させて頂く場面の方が多いような気がしていまして、日々の仕事の流れ作業の中で、デジタル撮影とかデータの扱い技術に関する ”向上心 ・ 研究心 ・ 好奇心” のようなものが停滞気味だったと反省している次第です。

kenken自身の自戒と勉強の意を含めて、今までのデジタルカメラ・写真撮影の基礎的な部分から、1歩進んだ 『データの扱い ・ RAW現像 ・ 色へのこだわり』 あたりのことへと、進んで行きたいと思います。

1:記録メディアの大容量化

デジタルカメラがデジタル機器である以上、”パソコンの性能” と ”記録メディア” とは、切っても切れない重要な関わりがあるのですが、ここ数年、特に 『記録メディア』 が大幅に進化 (大容量化&高速化) してきました。

コンパクトフラッシュにしても SD カードにしましても、3年ほど前はコスパ的な感覚では8GBあたりが一般的だったような気がするのですが、今では同じくらいのコスパ感覚で64GBや128GBほどもの大容量メディアが買えるようになってきています。
この間、もちろんデジカメ自体の平均的な画素数も向上して1枚当たりの容量も大きくなって来ているのですが、それでも、比率的に考えますと記録メディアの大容量化の方が2~3倍は上回っていると思われます。

これによって何が変わるかといいますと 『
一般的な日常使いでも常に RAW で撮影できるようになってきた
』 という点で、これは、少なくともkenkenにとっては、デジタル写真作品を創造していく上で革命的とも言えるほどの大きな変化・進化であるように思えています。

例えば、一般的・平均的には、画素数が同じであれば映像素子の大きなカメラほど画質は良くなる傾向にある、と言えるのですが、それはあくまでも撮って出しの JPEG 画像同士を比較した場合のお話です。
仮に、同じカメラの同じ設定で JPEG と RAW の両方で撮った写真があったとしますと、撮って出しの JPEG より、RAW で撮ったデータを後から細かく調整しながら現像した方が、まず間違いなく、画質は良くなりますし、またそうでなければ RAW の意味がありません。

例をあげますと、たとえば以下のような場合です。

※kenkenの所有機材 Powershot S100 で ”RAW + JPEG” で撮影したもので、左がカメラの撮影時設定
   による JPEG 画像、右が RAW を調整した上で現像した画像です。
※画像クリックでそれぞれ拡大表示されます。

カメラ撮って出しJPEG RAWからの現像
雨上がりの非常にみずみずしい雰囲気だったのですが、カメラのオートホワイトバランスでは少し緑+青みがかかった印象で、全体的に何となくくすんだ雰囲気になってしまいました。
右の画像は、キヤノンの付属ソフト DPP で RAW 現像したもので、ホワイトバランスを ”くもり”、ハイライト側の照度だけを ”1目盛りプラス” に調整し、現像したものです。
カメラ撮って出しJPEG RAWからの現像
晴れた日の夕暮れで、全体的に山の影に入った状態の中で撮ったもので、カメラのオートホワイトバランスでは少し青みがかかり、実際よりも少し明るめな印象に写りました。
右の画像は同じく DPP で RAW 現像したもので、ホワイトバランスを ”日陰”、明るさ調整で ”-0.33” + シャドウ側の照度だけを ”1目盛りマイナス” に調整し、現像したものです。

実は、上記それぞれ、左の JPEG を Photoshop で調整しても右の写真に近い状態までは持っていけるのですが、色味を全体的に変更するような調整はどうしても無理があって、細かな部分までしっかり観察しますとやはり画質を全く落とさずに現像できる RAW からの画像には及びません。

先述の通り、これらの写真はコンデジで撮影したものなのですが、右の RAW から現像した画像に関しては、数年前の最高級一眼 Canon EOS-1Ds2 で撮影した撮って出し JPEG (※) と比較しても遜色のないレベルの仕上がりになります。
※ただ、同じように RAW で撮影した画像を現像した場合は今でも 1Ds2 の方が上だと思います。

少しお話が逸れましたが、記録メディアの大容量化によって
”常時 RAW 撮影”
が視野に入ってきた現在では、RAW 現像の技術を習得することで、お手持ちのカメラでワンクラス上の作品を作り上げることも可能になってくると思います。

2:汎用 RAW 現像ソフトの進化

その ”RAW 現像” についてですが、例えば、

・キヤノンの場合であれば DPP - Digital Photo Professional、
・ニコンの場合であれば Capture NX、
・ソニーの場合であれば IDC - Image Data Converter

等、”RAW での撮影機能” を備えたカメラを購入すると必ず付随してくる
メーカー純正の RAW 現像ソフト
を利用するのが一般的でした。
もちろん今までも、Photoshop や Sylkypix など、様々なメーカーの RAW 形式をサポートした汎用 RAW 現像ソフトはあったのですが、でも恐らく8割くらいの方は、各メーカーが用意した画像スタイル (キヤノンの場合のピクチャースタイル等) との整合性と併せてメーカー純正のソフトを利用されていると思います。

もちろん、これらメーカーソフトはそれぞれに使いやすく素晴らしいもので、使い込めば使い込むほど ”仕上げの色味調整や予測” など使い勝手が良くなり、何より
”メーカー純正”
という響きには絶対的とも言える安心感もあり、パソコンのフリーズなど 『ソフトが原因かも知れないと思える何らかのトラブル』 を経験されている人ほど、サードメーカーのソフトはなかなか使う気になれないことと思います。

ですが、Adobe から発売されていた
Lightroom
が2012年に Ver.4 (※) になった時点で、RAW 現像に革命的とも言える1つの進化がもたらされました。
それが

『1枚の画像の中の、”異なる範囲” に異なるホワイトバランスを割り当てられる』


という機能で、さらに2013年に Ver.5 (※) になった時点で

『1枚の画像の中で、”部分的に” 異なるホワイトバランスを割り当てられる』


という機能が追加されて、より強力な現像ソフトへと進化しています。
※Lightroom の現在の最新バージョンは 6/CC (パッケージ版:Lightroom6 / クラウド版:LightroomCC / Lightroom 自体の機能は同じだけどクラウド版は Photoshop とセット)となっています。
※Photoshop の方では、2009年の CS4 + Camera RAW5 で段階フィルターが実装されていたのですが、価格的に高価であり、また当時のkenkenには必要がなく購入には至りませんでした。

この機能によって何が変わるかと言いますと
『より ”人間の目に近い自然な感じに色味を調整” した上で、”劣化なしの最高画質” で写真を現像できる』
ということです。

例えば 『風景写真』 の場合、太陽の当たる場所と影の場所では色温度が異なるわけですが、今までは ”どちらか一方” のホワイトバランスでしか現像ができず、それが納得できない場合は Photoshop 等で編集・調整・合成するしかありませんでした。

また、例えば 『昼の明るい時間帯に窓の大きい会場で行われるウエディングパーティ』 などの場合、室内側で白昼色系の照明が使われている場合はまだマシなのですが、もし暖色系の照明が使われていた場合、窓から差し込む外光とはかなり大幅に色温度が異なることになります。
そんな中、新郎新婦が各テーブルを挨拶回りしてそれぞれの席のお客様と記念撮影するようなことになれば、もはやどんな設定で撮ってもトータルで納得の行く写真に仕上がることは望めません。
しかも新婦側のご友人などドレスや着物で出席されている方は、できる限り自然に本来の色を再現して差し上げたく思うのですが、それを Photoshop で編集・調整・合成して1枚1枚仕上げようと思えば大変なことです。

もちろん、Lightroom で、それら Photoshop の編集に置き換わる ”現像前調整” を 行うのも大変であることに変わりはないのですが、少なくとも、”複数の写真” を調整する場合は、1枚1枚を別ファイル的に扱う必要のある Photoshop より、写真管理機能にも優れた Lightroom の方が何倍も楽に効率良く作業が行えます。

つまり、

●メーカーソフトでは、RAW を元として劣化なしの写真を現像できるけれど、1枚の写真の中に異なるホワイトバランスを割り当てることが出来ない。
●Photoshop では様々な手段を駆使して自然な感じに仕上げることはできるけれど、画像編集でいじった時点で画質の劣化が生じてしまうことになり、また複数の写真を管理しながら調整するのは煩雑になりやすい。

このジレンマを解決できるようになったことが、
部分調整機能を備えた RAW 現像ソフト
の最大の進化であると言えそうです。

なお、2016年夏の時点では、Adobe Lightroom の他に SILKYPIX Developer Studio Pro7 でも同様の機能が追加されているようです。

※また 『Photoshop CS6 + Adobe Bridge + Camera RAW』 の組み合わせ連携でも、Lightroom6/CC と同様の機能が実現できます。 逆に言いますと、これら3種類の組み合わせとほぼ同等の機能を Lightroom だけで実現できる事になりますので、Lightroom のコストパフォーマンスは極めて高いと思われます。


Adobe Lightroom 6/CC
@Amazon
SILKYPIX Developer Studio Pro7
@Amazon

3:4K の登場

この ”4K” に関しては、実際のところ、2016年夏の時点ではまだまだ ”一般的” とは言いにくいような気がします。

正直kenken自身がそうなのですが、
『 4K なんてまだまだ出始めたばかりで高価。 今の機器でも特に不足なく使えるし、もう少し値段がこなれてきてから、世間の流れに合わせて徐々に 4K に移行して行こう』
・・・と、考えておられる方も多いのではないでしょうか。

実際のところ、
”写真趣味人” としては
、4K 動画の作成やコンテンツに特にこだわりがないのでしたら、今はサイズ的な意味だけで 4K に走るよりは、カラー調整や色調表現能力に優れたモニターにこだわる方が意義が大きいように思えています。

ただ、デジタル機器の発展の歴史を振り返ってみますと、モニターの一般的なアスペクト比が4:3でデジカメの平均的な動画撮影機能が 640×480 サイズ程度だった頃、16:9のモニターも HD 動画 (1280x720)もまだまだ一般的ではありませんでしたし、16:9のモニターが一般的になってきた時点でもフル HD 撮影はまだまだ一般的とは言えない状態でした。

ですが今では、コンデジはもちろんスマホやウェアラブルカメラ、クルマのドライブレコーダーや防犯カメラでさえフル HD 撮影が当たり前となりつつあります。

さらに現在、4K のさらに4倍解像度となる
8K
が登場することも決まっているのですが、8K と言いますと 7680×4320 ですので、もはや 2000万画素前後の写真 (例えば 5D Mark3 の 2230 万画素の写真) を等倍表示させても画面サイズより小さくなります。
ちなみに 8K は BS で2016年に試験放送、2018年実用化を目標にされているそうです。

さすがに 8K というのは、仮に 2018年に ”実用化” されたとしてもそれが ”一般化” するのはそれこそ当分先のお話になるような気がするのですが、いづれにしましても、今の
”フル HD の時代”
が比較的長く続いていたものだから、
『モニタ解像度やカメラの高画素化もこの辺りがひと段落かな?』
みたいな気分になっていたのですが、4K が登場したことによって、デジタルに関するいろんな ”平均基準” のようなものが、今後急速に4倍化していくような気がしています。

恐らく今後2年前後の間には、一般的なパソコンとセットで店頭に並ぶモニターはほとんど 4K に置き換わり、今ご覧いただいているホームページなんかも縦に細長く見えて違和感を感じるような時代になってくるのではないでしょうか。

そうなった場合、例えば先ほど上げていました



こちらの画像ですが、これは
”今のフル HD 時代にご覧いただく Web 用に”
というつもりで、少し大きめの 『横:1500px × 縦:1000 サイズ』 で載せているのですが、4K 時代になった場合、この画像を等倍表示させても、モニター画面横幅の半分にも満たないサイズで表示されることになります。
恐らく皆さん、数年前に作られた何らかのホームページを閲覧して、そこに表示される小さな画像を見て、

『もう少し大きな画像に替えればいいのに・・』
『せっかくの写真作品、もっと大きなサイズで鑑賞できたらいいのに・・』

そのように感じられたご経験を少なからずお持ちではないかと思うのですが、この上のサイズ程度の画像もやがてそのようになる可能性が高そうです。

もちろん、それが 『デジタル機器の進歩』 というモノで、また写真の場合は無断転用や著作権等の問題もありますので仕方のない事なのですが、でもここに、
『デジタル写真を鑑賞する』
という行為そのものに関しての、今後の流れや発展を占うようなニュアンスも秘められています。

フィルム時代は、写真と言えばプリントされた状態で鑑賞するのが当たり前 (というかそれ以外に手段がなく) で、サイズ的にも、写真展とかポスターやカレンダーなど特別サイズの印刷を別とすれば、
一般的には
A4 雑誌見開きの A3 くらいがほぼ最大と言えるもので、実際にはその A3 サイズも滅多に目にできるものではありませんでした。

また、時代がデジタルに移行してパソコン画面上での ”等倍確認” が一般的になってきたことで、カメラはもちろんレンズの性能も比較的に向上し、現在ではカメラ自体の高画素数と相まって非常に精細な描写を可能とするシステムが多くなってきました。
ですがその一方で、せっかくの高精細なデジタル写真も、A4 サイズ程度の
印刷
では、その ”真価” や作者の表現意図をあますことなく鑑賞する、あるいは
伝える
のはなかなか難しいのも事実で、実際問題として、フル HD 時代の現在でも、恐らく8割方は、
写真鑑賞
と言えば 『パソコンモニタ・液晶TV・スマホ・タブレット・フォトフレーム等、何らかのデジタル映像機器で行っている』 のが現実ではないでしょうか。

つまり、その 『デジタル写真を鑑賞する ・ 伝える』 ための主流とも言える表現手段が、4K の登場によって ”あらゆる意味での品質的に4倍化される時代” が近づいている、と、言えそうな気がしています。